国内電子書籍販売ではKinoppy に一番期待している
国内の電子書籍販売サービスでは、Kinoppy に一番期待しています。*01
理由は、購入電子書籍の再ダウンロード無期限無料と、マルチデバイス対応を(達成にはまだ遠いですが)標榜しているからです。
@motomaka さんの紹介記事にだいぶ感化されているってのもあるかもしれません。*02
期待しているだけに、面白くない点がある
で、期待しているだけに、面白くない点があります。
中でも特に気に入らないのが、以下の3つ
- 刊行予定が公開されない
- 刊行予定が安定しない
- 公式アプリが(私には)使いにくい
1.刊行予定が公開されない
紙媒体の本は、刊行予定が予め公開されています。
少なくとも月単位で「来月刊行される本」というのは、知ることができます。
ところが、Kinoppy にはそれがありません。
いつ刊行されるかわからない電子書籍を待って、紙媒体の本を横目に指をくわえて待つのは非常に苦痛です。
2.刊行ペースが安定しない
紙媒体の本は、概ね刊行予定が安定しています。
マンガを例に取ると、1巻と2巻の発刊間隔は、連載ペースによる影響こそ受けますが、大きくズレることはありません。
しかし、Kinoppy の刊行ペースはズタズタです。
紙媒体では完結巻がとうに出ている作品でも、途中まで刊行しておいて続きの発刊がないという作品などが多くあります。
これでは、ちゃんと最終巻まで読めるのか不安で仕方ありません。
3.公式アプリが(私には)使いにくい
Kinoppy のiOS公式アプリが非常に使いにくいです。
無論、これは個人の使用感ですので、それを持って「使いにくい」と断言するのは乱暴かもしれませんが、少なくとも私には使いにくいです。
例えば「お気に入り新刊」という機能。
最新刊が気になる作品や著者を登録しておいて、最新刊の発刊情報を知ることができる機能です。
これに登録できる作品と著者の数、合計15件。
たったの15件です。
マンガ、小説、一般書、ぜんぶひっくるめて、たったの15件!?
この仕様を考えた人は、よほど本やマンガを読まない人ばかりをリサーチしたとしか思えません。*03
この1例をとっても、私の「使いにくい」発言はあながち否定されるものではないと考えています。
API公開が最大の鍵
ただ、これらの点については思うところがあって、私は「API公開を行うことで色々と解消されるんじゃないか?」と考えています。
そもそも、公式アプリ1つで全てをまかなおうとすることに無理があるのです。
Kinoppy が扱う書籍は幅広く、ラインナップもどんどん増えていきます。
当然、読者層も読書スタイルも多様化の一途をたどるでしょう。
それを1本の公式アプリで全て面倒見ようというのは、無謀以外の何者でもありません。
ですから、API*04 を公開し、Twitter の様にクライアント開発を在野の開発者達に任せてしまえば良いのです。*05
そうすれば、ある開発者はマンガに特化したアプリを作るでしょうし、別の開発者は独自の読書記録機能を加えたアプリを作るかもしれません。
多くの開発者たちに扱われることで、電子書籍配信サービス自体に求められるニーズの抽出も行いやすくなります。
Kinoppy の目的は本という「コンテンツ」を販売することで、公式アプリを広めることではないはずです。
細かいニーズに対応するアプリ開発は在野の開発者達にまかせて、Kinoppy は安定した電子書籍提供の仕組み作りに注力して欲しいのです。
気になったので聞いてみた
上記の様なことをしょっちゅうTwitter やFacebook に垂れ流してきたわけですが、どうせなら直接聞くのが本筋です。
と言うわけで、Kinoppy の「お問い合わせ」に聞いてみました。*06
Kinoppy for iPhone,iPad,Android|紀伊國屋書店の電子書籍ビューア (iOS&Android)
質問文
以下の様な内容で、紀伊国屋 BookWeb Plus の「お問い合わせ」に質問してみました。
今、読み返すと「偉そうだなー」と思いますが、まあ身勝手なユーザーの声ということで勘弁して下さい。*07
【問い合わせ】 1)刊行予定の公開は行われないのですか? → 私は続刊の電子書籍版の刊行を期待して買い控えている本が多くあります。 しかし、紙版の刊行から数ヶ月を経過しても刊行されない本が多くあります。 紙の書籍の様に、刊行予定を公開はできないのでしょうか? 2)刊行予定の安定化はできないのですか? → 上記に関連しますが、紙媒体と電子書籍の刊行ペースが全く読めません。 電子書籍版の続きが出るのか否かも不安です。 これでは安心して購入できません。 刊行予定を安定化できませんか?(理想は紙版と同時です。) 3)APIの公開は行わないのですか? → 現在、公式ソフト以外にビューアが存在しません。 しかし、公式ソフトには使い勝手の部分に多くの不満があります。 例)小説とマンガでは読み方も買い方も大きく異る。これを1種のソフトで全て 賄おうとすると無理が出る。 APIを公開すれば、在野の開発者達がこぞって良いアプリを作ってくれます。 目的は「本を売ること」で「アプリを売ること」ではないはずです。 ビューアの多様化は読書体験に幅と深みを同時に与えてくれます。 API公開には相応の準備(セキュリティ、サーバー負荷対策、...etc.)が要りま すが、見返りは大きいはずです。 国内電子書籍の全てが、どんぐりの背比べである中、マルチデバイス対応を打ち 出しているKinoppy がAPI公開に踏み切れば、他を一気に引き離す可能が高いでしょ う。 アプリ開発のコストとリスクは最小限に抑え、書籍ラインナップの拡充に努めて 下さると嬉しいです。
回答
で、上記に対する回答が以下。
あおのうま 様 紀伊國屋書店 電子書籍事業部です。 お問い合わせありがとうございます。 ご質問の(1)と(2)につきまして、恐れ入りますが、弊社では電子書籍化は 行なっておらず、出版社より電子書籍化されたデータの提供を受けて配信しております。 このため、電子書籍の刊行予定は出版社からの情報提供を受けて把握しますが、 あいにく電子書籍は未だ紙の書籍のように、新刊のスケジュールが計画的にわかるような 仕組みにはなっておらず、配信直前もしくは当日になってわかるような次第でございます。 何卒ご了承賜りますようお願い申し上げます。 また(3)のご質問でございますが、APIの公開を行う予定はございません。 宜しくお願い申し上げます。
結論
紀伊国屋書店 電子書籍事業部からの回答を見ると、以下が結論となります。
- Q:刊行予定は公開されないの?
- Q:刊行予定は安定しないの?
- Q:APIの公開はしないの?
刊行は出版社がやっているから、Kinoppy も知らないの。
出版社も紙の本と違って、スケジュールとか公開する仕組みも作っていないの。
とにかく出版社が鍵を握っているから、どーにもならないの。
そんな予定は無ぇ!
だそうです…。
それで良いの?
正直、とても残念な気持ちになりました。
確かに、紙媒体の本と比べれば、電子書籍は始まったばかりのサービスかもしれません。
しかし、それで良いのでしょうか?
出版不況という言葉をよく耳にするようになりました。
そんな言葉が一般に流布しているぐらいですから、今、業界的には充分に土壇場でしょう。
電子書籍は、そんな出版不況の中で生き残りを賭けた新しいステージなはずです。
その中で最も期待を寄せているKinoppy からして、この有り様。
これで本当に私達が期待するような電子書籍の読書環境は提供されるのでしょうか。
まさか、現状に皆が満足しているとは思っていませんよね?
期待半分で見守っているだけですよ?
いちユーザーの身勝手な文句かもしれないけれど
「自分が問い合わせた内容に気に入った返事が返って来なかったからといって、ダメ出しをするのはおかしい」
とおっしゃる方もいるでしょう。
しかし、考えてみて下さい。
出版社は安定した供給を行わず、取次であるサービス業者(この場合は紀伊国屋書店)はそれを「出版社の仕事」と切り離し、期待を込めたAPI公開への問い合わせには「やらん」のひと言で、切られる。
この回答のどこに何を期待すれば良いのでしょう?
出版社様が刊行ペースを紙の本と同レベルに引き上げ、Kinoppy のアプリが万能超絶神アプリになるまで、口を開けて待っておかねばならないのでしょうか?
もう一度、冒頭の言葉を繰り返します。
国内の電子書籍販売サービスでは、Kinoppy に一番期待しています。
ですが、それだけに、あまりに残念です。
Kinoppy がではありません。
国内電子書籍全般の現況がです。
過渡期にあるのもわかります。
そう簡単には変わらないのも知っているつもりです。
それでもやはり、期待しているが故に残念です。
おまけ:現状、最も理想的は電子書籍配信はO’Reilly のEBook
脚注にもありますが、現状、最も理想的な電子書籍配信はO’Reilly のEBook です。
DRMフリー*08 のPDFファイルで、購入書籍の再ダウンロードも可能。
PDFが読める端末であれば、どの端末でも読めるし、アプリも問わないわけです。*09
これぞ電子書籍の理想形「BORA(Buy at Once, Read Anywhere – 買うのは1度。読むのはどこでも -)」です。
惜しむらくは、コンピュータ技術書ばかりなことと、決済手段がクレジットカードのみであることでしょうか。
- 【一番期待】
ちなみに、一番「素晴らしい」のはO’Reilly のEBook です。
あれこそBORA(Buy at Once, Read Anywhere -一度買えば、どこでも読める -)を体現した電子書籍販売です。
残念ながらコンピュータ技術書オンリーですが。 - 【感化されている】
影響されやすい性分なんですよね、私。
根がミーハーなんでしょう。 - 【仕様を考えた人】「紀伊国屋書店」っていう国内屈指の大手書店が行なっているサービスなはずなんですけれどね。
- 【API】-アプリケーション・プログラミング・インターフェイス-
プログラムの機能を利用するための命令リスト。
これを公開すると、他のプログラムから、そのサービスの利用が行いやすくなる。
Twitter などが好例。
多くの開発者がTwitter API を利用して、独自のTwitter プログラムを開発している。 - 【任せてしまえば良い】
Twitter の爆発的普及の理由のひとつに、API公開による多くのクライアントアプリのリリースがあることを否定できる人はいないでしょう。 - 細かいことですが、下記の「お問い合わせ」ページのページタイトルのどこにも「お問い合わせ」の文字がないことを見ても、紀伊國屋書店 BookWeb Plus の作りに疑問を感じます。
- 【偉そう】そもそも、それを言い出すと今回の記事自体が随分と言いたい放題なのです。
- 【DRMフリー】デジタル暗号化などのプロテクト処理がかけられていない電子コンテンツ
- 【DRMフリーのPDF】
実際、全ての電子書籍がこれになれば理想なのですが、マンガなどのコンテンツでこれをやると、海賊版の猛威に裸で飛び込むことになるので、ちょっと無理がありますね。